虚空の眼、そして宇宙の眼、眼前の世界

よんだ 
宇宙の眼
フィリップ・K・ディック




ネタバレしますよ---

眼の表紙とタイトル

元々のタイトルは「虚空の眼」、あの表紙の絵がすごい気持ち悪いやつ(創元SF文庫91年)
ヴァリスよりけっこうしんどいやつ

子供心にSFって怖いっていうイメージを植えつけたのは絶対創元文庫のせいだと思うんだよ。
文春文庫や角川文庫は読めても、SF棚はやっぱり怖かったし
読んでた同級生の男の子はすごいなあと思っていた中学時代を
懐かしく思い出させる藤野一友(中川彩子)の絵...は置いといて
今のディックはとってもスタイリッシュなのです!
このシリーズは全部買っておこうと思いながら
今作はつい隙間時間用にkindleで買ってしまった。



原題が「Eye in the Sky」(Eyesじゃないんだよ)の通り、
ebayで検索した初版1957や77年なんかのペーパーバック
ほとんどの原著はジャケットに眼のイラスト。

www.ebay.com
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この内容で、眼じゃない「陽子ビーム加速装置(でも裏面から見るとちゃんと眼があることがわかる装丁)」とか「昆虫」をジャケットにしちゃうのは素敵なセンスだと思うんだけど、だからって卵アレルギーの関係ない絵をもってきちゃう90年代(企画は80年代だろう)の創元さんはどうかしてるよ。

でも、新しい21世紀の早川シリーズは、この毒々しさみたいなものがちょっと失われた気がしなくもない。
タイトルも「宇宙の眼」じゃ普通すぎるしね。
まあでもこれくらい神秘主義感を削いであげないと現代の流通では厳しいのかもしれない。
若い子はこっちのほうが手に取りやすいのかな。
永遠の中二病キレる17歳世代としては、「虚空の眼」の方がしっくりくるけど
それにしても創元版はちょっと蓮コラみたいであんまりだよ気持ち悪いよ!(老人会)

読み口

「宇宙の眼」は私が一番大好きな「ユービック」とストーリーが少し似てるけれど
ユービックはだいぶ後期の69年の作品で、宇宙の眼は57年、彼がまだ貧乏してた頃の作品。
ディックは作品の中で時々男のかいしょなち感を自己肯定する感じがあるけど
それでも俺は妻に優しい責任ある男、みたいな感じでなんとかしようとしてて
まだ後期のような開き直り感がない(この時すでに2回離婚してるけど)。
読み始めはふやふやした読み口だったけど、逆メリーポピンズしたあたりからの勢いが素晴らしかった。
主人公たちが気づき始めたスピード感とテンポが本当に映画。
脳内でハリソン・フォードマット・デイモンが居てくれる。
読み始めてなんか進まないなあという人もがんばって少し進めて欲しいと思う名作。
アルジャーノンの知性と文章がリンクしているように
主人公たちが気づくスピードに乗っている感じ。
草原や持ってるサンドイッチや靴や物を叫ぶシーンは快感だった。
こっちの世界でも叫んでみたいね。困るけど。
ユービックみたいに終わるかと思ったけど、初期作だから初期らしく終了。



宇宙の眼はさ、自分自身の眼なんだと思うんだよね。
他の作品でも語られるけどさ、
無意識にある「このまま何もない世界で保護されて無難に生きてたい」っていう思いを打ち破って
今、目のにある「過去に逃避したがる自分自身」に打ち勝って新しい世界を切り開いていくこと。
色々模索しながらもなんとか生きてこうとする、そういうハリソンフォード的な世界が好きなのですよ。
ユービックはよりわかりやすくなってるけど、ユービックより初心者向けだと思う。宇宙の眼。


とりあえずディックは全巻制覇したい。そして
「ラスト・テスタメント P・K・ディックの最後の聖訓」を読むのだ


以下自分用メモ


イナゴ身重く横たわる 高い城の男
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「フロリクス8から来た友人」
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「流れよ我が涙、と警察は言った」
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2049
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ユービック スクリーンプレイ
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