下降感覚 III

偽装された生の世界は 日常的な死の世界である きみの生殖は 限りない死産の連続であり きみの快楽は 恐怖が本質だ 無意味であることによって 生きながらえている ぼくらの世界は 狂気を受け入れる島がない 狂気とはことばに憑かれることだから 詩人Rの狂気はそれだけで反逆だ ぼくは狂気となって 視えないことばの島まで行くことができるだろうか 海女が海底に達するおもりは ぼくにも必要だ 乱反射することばの波も 一つの偽装であるなら 海底までの幾千メートル闇こそが ぼくの降りていくところだ


北川透詩集「義眼の日々」より『下降感覚 III』