「朝焼けの日に」清水昶

約束だらけの朝が来た
うすいスープが煮えている
人間の脳髄さえも焦げそうな朝が来た
いつも
目覚めるまえに
わたしははげしく年をとる
たとえば
睡眠の深みに続く廃坑にもぐり
観念の岩が噛む苔を殺ぎ
あらゆる日々を食べつくしたあと
昏い坑道を吹きながれる歳月の髪につつまれて
まっしろになってふるえていた
くるしまぎれに這いはじめると
朝の方角へ激痛とともに
口から股へとうらがえり
約束だらけの朝が来た
幸福なフライパンが鳴っている
アルコール漬けの胎児が
花壜とならんでいたりして
新しい妻だってきちんと吊られている朝
わたしは出発する
美しい朝焼けに燃え
扉もなく
廃坑のように
唄のようにつづいている
夢の会社へ