意地悪な子供でない限り

いつもリュシアンは非常におとなしい子供だったが、その日は、言うことをききたくなかった。彼は、いらくさの大きな茂みを、うさんくさそうに見た。もちろん、それも、禁じられた場所だった。壁は黒ずんで、いらくさは有害な意地悪そうな植物だった。犬が、ちょうどその足元で用を足していた。植物と犬の糞と熱い酒の匂いがしていた。リュシアンはいらくさを杖でたたいて、「お母さま大好きだ、大好きだ」と叫んだ。彼はいらくさが折れるのを見た。それは白い樹液を流しながら、哀れに垂れ下がった。白っぽい産毛をはやした折れ口が、破れて糸を垂らしていた。彼は孤独な小声が叫ぶのを聞いた。「お母さま大好きだ、大好きだ」大きな蒼蠅がうなっていた。それは糞蠅だった。リュシアンはこわかった。―――そして強力で腐敗した禁断の匂いが、静かに鼻の腔をみたした。彼はくりかえした。「お母さま大好きだ」しかし、その声は異様なものに思われた。彼は飛び立つばかりの恐ろしさを感じ、一気に客間まで逃げ帰った。その日から、リュシアンはお母さまを愛していないことがわかった。彼は良心にとがめは感じなかった。しかし、意地悪な子供でない限りは、一生のあいだ、両親を愛しているふりをすべきだと考えていたので、前よりさらに優しくした。