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通勤路の交差点にあったケヤキが切られてしまった。
「この木は弱っているので、交通安全の為撤去します」
という貼り紙は数日前から見ていたのだけれど
スパン、と切り倒された長い切り株を見た時
首をもがれた人形が座っているような感じを覚えた。
そこにはまだ生命があるのだけど、モノを言う口もなく
次は身体ごと根こそがれてしまうのを待っている。


あの交差点には色々と思い出があって
大きな欅は信号待ちの雨宿りをさせてくれた
長い信号に走る歩行者を眺めながら
他人の多忙を見つめながら携帯を握り締めた
今の会社に面接に来た時も欅の下に居たし
ぐっと堪えながら信じ求めて
欅の木の下を毎朝通り抜けてきた


夜、跡形もなく地面は埋められていた。
ここにケヤキがあったことなど誰も思い出さないだろう
イーストサイドに出来た大きなビル
どこかから突如現れた森
裏窓の隙間を行くコルヴス
世界を歪ませる遊び
googleマップの中に1つのID
いつかこの手に触れた欅の肌
人工物の街の中に在る生命
そんなことを意識に巡らせながら
部屋の天井を見つめていた。