頬にキスを

誰かに手を引かれ次の角を曲がり
そこに居た人に手渡された紙袋を持って
中に書かれた行き先を検索して
乗ったこともない電車に乗り換える
追い風は半身を削ってどこかへ連れていく
同時に4本手渡された紙縒はとてもカラフル
どの紙縒が手前に見えますか
銀座の街を、四ツ谷の道をすり抜け
何人分の人生を体験させてもらっている
ヘッドセットはマフラーの裏にしこまれて
感性を揉まれて引っ張られて、幸せだ
味のない舌で舐める感覚は弾力を感じて
抱きしめたその子の首に手を回して
頬にキスをした
今日は今日だけ明日の数はどんどんなくなっていく
いつかその日がくるまでにできるだけ


「ゆりちゃん、あなたはとてもかわいいけれど
今年はいいよ、でもねずっとここに居てはいけないと思う
いつかあなたをここから出してあげないと」
そう言って先ほどの通りの奥に消えていった彼女は
しゃきしゃきしていてはっきりと物を言う
正に江戸の娘といった感じでとても綺麗なお姉さんで大好きだ。
そう、きっと私は今だけここにいるんだってわかっている
日常はドラマのようなストーリーで毎日を彩り
壁に映されたプロジェクターには透明な映画が流れている
かつて読みかけた本の続きを読み進めている、つまりは
この章にはいつか終わりがくるということだ
終わった後もあなたのストーリーが続いていると
次の本の登場人物にもあなたの名前があるといいなって思う。