笑ってよ

rottenlily2010-07-05

鉢に植え替えたペペロミアに虫が寄っていたので
ユーカリプタスのエッセンシャルオイルを撒き散らした。
部屋は旅に出る前の喧騒のまま、物が散らばったまま。
わかっていながら、ぐったりとベッドに横になった。


早朝に家を出てそのまま飛行機に乗り、東京に着いて荷物を部屋に置き、そのまま仕事へ。
10時間働いて部屋に帰り、週末の間に来ていた仕事を片付けて5日夜はさすがの私もぐったりした。
ぐったりしたのは体力的なことだけじゃない。
心に重くのしかかるのは、言いようのない現実という人々のドラマ。
ふらり地元に帰ってきて、そのまままた東京に戻る人間には、
複雑に絡み合う内向的な悩みを、逆に打ち明けやすいのかもしれない。
とにかくひたすらに聞き役に徹した今回は
疲れ以外の何物かを心に抱えたまま帰ってきてしまった。
それでも、なんだか気持ちがすっきりしたって、ありがとうって
笑顔で手を振り踏み出していくみんなの姿を思い出していたら
今の自分の弱弱しい立ち姿が
置いて来た長崎の暗闇にくっきりと浮かび上がったようだった。


22年間暮らした昔の実家は更地になっており、町名の看板が斜めに打ち捨てられていた。
想像の中ではずっとずっと大きかったその土地は、更地になってみるとただの小さな地面だった。
生え始めた雑草の間にできた水溜りにすずめが寄り集まり、空には鳶が遠く泣きながら旋回している。
横を流れる水路は埋め立てられ、真っ白なコンクリートの長い道になっていて、
若い大学生と高校生が、座り込んで煙草を吸う私の横を通り過ぎていく。
壊さずに残っている古いコンクリートの線の先に墓地が見える。
ついさっき見ていた母親の眼、昨日見た祖母の眼、いつも飽きるほどみてる私の眼、涙を流した弟の眼。
建物を取り壊すことで得られる空の広さは、人の心の穴の中まで明るく照らしすぎる。
私は、多分もう二度とこの場所には来ないのだろうと思った。
土地に対する嫌悪感ではない、ただこの形のままこの場所を保存しておく、最後のページに。


他愛もない私の思いなんて、きっと鼻で笑われるに違いない。
でもきっと、ずっとずっと適切な言葉を返してくれる気がする。
こんな時はどう振舞えばいいだろう、
あるものをあるものとして受け入れようと思うことができる。
難しいことは、カプセルに封じ込めてそのまま飲みこんでしまおう。
美味しいお茶を飲んで一服でもして、ただゆっくりしていたい。
ほんの10分、そうしたらまた気持ちを切り替えて頑張るよ。