シシャモの夜

大きな川では盲目の魚たちが放流されている
盲目の魚になれなかった動けない犬は三角州で俺の夜を嘆いている
全て生物の背中にはジッパーがついていて隙間から言葉が漏れている
漏れた言葉は左向きに回転しながら働き者の世界が壊れている
渦を見つめながら右向きに捻られる老いた猫が死んだシシャモをくわえて淀んでいる
死んだシシャモは白い紙に噛みついていて白い紙にはベビードールの詩が書き付けられている
ビードールに泥を塗る九十九鬼は笑いながら赤いトイレマットを翻す
翻る黒いマントが外野席で忘れ去られようとしている

全て生物の背中にはジッパーがついていて隙間から言葉が漏れている




死んだシシャモを体に取り込みながら俺の夜が萎えていく
回数を重ねるごとにリンゴは引力に逆らえなくなっていく
全て生物は背中から言葉を溢しながら灰色の糸に絡まれて
目玉を抉られた魚たちは一匹ずつ大きな川に放流されていく


小さな三角州で俺の夜が怯えている
足元のトンネルから消えた猫のことを考えながら
音の無い部屋で何度もシシャモを殺している