アーカイブスピードII

京浜東北線の黒い窓に映った女と目が合った
ニヤリ笑った瞬きの後に顔は
川崎駅の菖蒲になった



速く、速く、走れ全速力で
息を切らした小瀬魚の群れが湾岸線を泳いでゆく
零時六分当駅始発の水門を潜らなければ
コゼナはギロチンの内側で干潟の割れ目に吸い込まれてゆく
有明の子宮で江ノ島の夢を見ながら乾上がってゆく



聞こえないように伝えた歌詞は醜く付着した皮下脂肪で揺れてリズムを刻む



四ッ谷の角の楽器屋さんに
飾ってあった高い高い中古のギターは
その次見たらなくなっていて
しょうがないから忘れてた

ある時見つけた中古のギターは
確かにいつかの木の葉のギターで
赤金色の弦を張る
貯めたお金で未来を買うよ、と
笑った少年の斜め後ろに
飛べないひよこが風を切ってた



東京駅では小瀬魚の群れが
黒い水門に間に合わなかったコゼナの群れが

身震いする12月のビルの下で高速バスを待っている

今夜万札を持たない者は好きな女を手にいれられずに小瀬魚になる
女は桜木町行きの京浜東北線で女に負ける
ループする山手線はいつのまにか止まってる
私は今日も箱庭の一部になって
誰かのセロトニンを奪って
誰かに与える、こんな毎日を繰り返すだけ


小瀬魚はいつか
母なる東の海に帰ろうとするけれども、
走れど走れど海流は
全て東京湾に押し戻す
体ごとこの海でループしている

体ごとこの海でループしている
二つ目のアーカイブスピード