「夜の反悦」
text by 洸本ユリナ
2007.06.27初出分改編
剥がれ落ちた頭皮の毛穴に見入る
這い蹲るベッドで水を欲している
名付けられた病名には正確な対処薬が存在しない
突出した眼球が卵胞の憂いに倣う
体制に敷かれた者の反悦
いずれ手の平の沈まぬ朝日に
二匹のウサギは踊れない
リスペリドンの憂鬱が
空気の底で張裂けそうに声を上げ
リズムとなって 言葉となって
誰の耳に届くのだろう
突出しないのは偽薬のせい
淫売と呼ぶ名は逃げた猫の憂鬱
乳房を齧ってマイクを握れ
いつか知ることのなかった舌先の刺激で
吐き出したスピードに乗った不可逆の夜の反悦
纏わりついた体液がほら、
拭き取っても拭き取っても消えないよ
あの娘は石鹸でかき回す
あの娘は偽薬で乳房を舞わす
いつかベッドの上で垂れ流す
エビオス色の透明な泥沼に
流れていたのは不可逆の
夜の反悦、お前の知らぬ、埃の厚さよ