誰にも見えないの眼底に

それが眼に見えないからといって きみは罪をのがれることはできぬ きみが告発しているとき きみは告発されているのではないか こんな物狂ほしい疑いにとりつかれると ぼくらは 自明の世界に存在できなくなる そのとき ぼくらの眼はえぐりとられて 事物の側から ぼくらを注視する



闇の中の呻き その上を多勢の足が陵辱した それはひとりの少女のことではない ひとびとは眼に見える<死>には花束を捧げる 感傷の弔詞をのべてみせる それはすべて冒涜の形式だ 死に欲情するぼくらの世界 土の中の耳ははげしい叫びを聞いた 血のにじんだ土の眼はすべてを見た




北川透【義眼の日々】より『無題』抜粋