人々の白昼に

以下引用


その夜二本の箸のあいだでまるく白いイキモノを裂きながら もっとも自虐的な物語をかたってあなたは自嘲する 裏通りばかりをめぐり歩く物語 人々の白昼におき去りにされる物語 だがあらゆる物語のこちらがわではいちどとして あらわな存在を棄てられたためしがない 透明な水を泳いで渡る夜にも 飛んでくる問いの鳥から逃れられたことがない 物問い鳥が飛んでくる 世界とあなたのあいだにある空から 頭蓋のなかの夜空いっぱい無数の羽摶きに満たされ 両耳を強くおさえて駆けだすと そこにはもうひとつの夜空があり 潮の匂いのする町があり 悲しいほどにあやういあなたである肉塊があったりした
「水銀灯群落 瀬尾育生詩集」より抜粋