しっかりはたらきなさい

このまま新宿で下車して、乗り換えてどこかへ逃げてしまいたい。
聞こえてくるのは「休んじゃえば」って声と「しっかりはたらきなさい」って声。
私は後者の声を聞いて会社へ行く。前者の声を聞いても会社へ行く。
でも、海に行きたいな。赤い旅行カバンを手に入れて海を眺めていたい。
しかしね、開演まで残り数分しかないのよ。
私は昔の自分でもなく、でもうまく演技できない役者のままでもあり。
散々に言われてもまあ、いいや。目的が達成されるなら何のネタにされてもいいよ。要は船を先に進めるってことだ。
途切れ途切れに空に見えていた毛糸が見えなくなる。深く寂しいのはなぜだろう。
あの時何を思って歩きはじめたか、私は逃げ出さないけど、歩いても歩いても世界は映画のまま。
かの人は何事もなかったかのように跡を濁さず空を飛ぶスマートなペンギンのよう。
わたしは玉虫色に光るトンビのようになりたいのだ!