「物への関わりにおける平静さ」

技術的世界の設備や装置は欠くことのできないものではあるが、私たちは知らず知らずのうちに、技術的な装置に固く繋ぎつけられ、その奴隷となっている。しかし私たちは別な生き方をすることもできる。それは技術的装置に対し、適はしく使用し、それらによって私達の本質を歪曲し混乱させられることのないように、私たち自身を保つこと。すなわち技術的装置に対し、同時に「然り」と「否」が言える「平静さ」を保つことである。そのためには「省察する思惟」を目覚めさせておくことが肝要であり、省察する思惟を通じてこそ、或る新しい根底と地盤のうちに根を張ることができる。
1955 M.Heidegger「原子力の時代に向けて」より抜粋