大事なものは古くなる

私にとってとても大切な場所
最後の夜は本当に楽しくて私は私でとても嬉しかった
沢山の人が喜んでくれてとても楽しそうだった
「大事なものは古くなる」と歌う歌詞が頭に残ったまま
終電から帰宅すると家の明かりがついていて
空白を埋めるように言葉と言葉の間に
カラフルな色紙を切って敷き詰めるように会話した


みた
「さよなら歌舞伎町」廣木隆一


歌舞伎町のラブホテルを舞台にして展開する群像劇。
いつか昼と夜に働いていた街のどこかで見たストーリー
カレーと打ち上げで疲労しきった頭で片付けしながら丑三時に裸眼で見た
そうはうまくいかないものさ
お話だから見ていられる前田敦子のためのペライチ
AV嬢は男とわかりあえないまま白い明け方のBARで手淫の真似をして手をひらひらして笑顔だし
それを眺めているイタリアのお偉いさんはSPに連れられて二階へ上がっていく
不倫がばれるのを恐れた男は女を捨てはしないし
彼女は泣いたってデビューなんかできないまま高田馬場のスポーツバーの5階に沈む
デリヘル嬢は男に耳をつねられて耳が裂けたまま空港で足止めを食らい
男は3日後には道玄坂の下でカレーを食べているだろう
あの街で見た様々な記憶を思い出していた
境内のおかしな方向から前田敦子が現れて
決してうまいとは思えない役者たちがうまい演技をしている
お話だから見ていられるのは他人事だから


現実は
もっとじゃばらに
じゃばらに


もっと分厚くもっと美しくない
お話よりももっともっと面白くて希望に溢れているものだ
ああ、覚えているいつまでも覚えている
大事なものは古くなる