秋刀魚の宿るところ

秋の長雨が続いている。風はもう冷たくて肌寒い。
「セーター欲しいよー」と叫ぶ女子高生を見送りながら私も震えている。
ふと見上げた空に、灯かりに照らされた霧雨がまるで雪のように舞っている。
すっ と鼓動が止まり、胸が締め付けられる。
心に響く映像がまるでGIFアニメのように繰り返される。
寒さと風の中、降るはずの無い雪を思う。

わたしは少し衝動的なところがあって、
今日も勢いで家人に酷いメールを送ってしまった。
夕方、後悔の中、どのように謝ろうか考える。
私はひどい女だとつくづくしんみりする。
目が乾燥して痛い。

仲直りに決めたのは、新しい味のカレーペーストと秋刀魚。
秋刀魚は刺身用と書いてあって、目も澄んでいておいしそう。
お豆腐とゆずぽんも買って帰る。

帰ると家人は寝ていた。メールも見てないという。ほっとする。
メールの件を謝り、ご飯を炊いて味噌汁作って、秋刀魚を焼く。
暖かな食卓
暖かな食卓

秋刀魚の宿るところ、水は澄んでいて、人々は笑っていて
秋刀魚の宿るところ、秋の長雨は憂鬱でないと知る
暖かな食卓に並べられた秋刀魚は魚皿の上幸せを連れてくる
鯛でも平目にも出来ないところ
秋刀魚の宿るところには雨さえ風さえ濁らないここに暖かな食卓

ずっと自分のためだけに生きてきたけど、
誰かを思って生きることがどんなに大変なことかを知る。
たぶん私の次のステップ、二〇歳のレッスン。

秋刀魚の宿るところ、と、二〇歳のレッスン。