いつの間に 私はこんなに


特許事務所時代を思い起こさせる服で、少しは似合うくらいに歳を重ねられただろうかって
買ったワンピ着てったら、『チャイナドレスみたいですね』って言われてひどく凹んだ。
朝の時点で似合ってない気はしていて、彼女はほめてくれたけど全然嬉しくなくて、
もう何年も前のこと、忘れてしまった昔のことを思い出していた数時間前の自分自身も
どこかで泣いている声も、赤い目で駆け込んでいった彼女も、
ただ色々なことが悲しくなった。


例えば知らないほうが良かったこと
したくもないのに反芻しては気を塞いで
何も形にすることができず、
色褪せていく自分の呼気に胃液が絡み付いて竜巻になる。
きっとどこかに穴が開いたんだろうけど
暗闇の中では自分自身の姿も見えない。
掌も隣も後ろも、声の主も。


綻びになるくらいなら
紡いだ言葉の糸は仮縫いくらいで済ませてしまおう
いつか形がなくなるのなら
始めから形にしないほうが悲しくないから


天気予報を間違えた車両の傘
書類ボックスに立てかけておく傘
いつか旅先で買った傘
鞄の底で大人しい傘
玄関に誰かが置いていった傘
今日の天気を探すのに
信じているのは今日の雨