窓枠の手


あなたはもう人ごみを見たくないというから
膿んだ風に当たるのは嫌だというから
どうか窓枠から見ていてください
それにはわたしが清んだ目をしていなくちゃね
人にぶつからないように人ごみを歩く術
顔を上げてものっぺらぼうの人々なら怖くない
もうきっと忘れてしまった見知らぬ空の夕闇を
いつか在ったノイズが人の隙間を進んでいく様を起こして
燻製にするからおいしいところだけ食べてあとは捨てて
新宿駅東南口から続く坂道を少し上ると後ろには新宿駅が見えた
ここはもう汚染されるだけの街で
泥を這うようにかき分ける地面の砂利が口の中に入る
後ろから突き落としたのは嫌いなクラスの子
アリの巣に水を注ぎこみじっと見つめるように
わたしとあなたは何かを握りしめたまま
今外に出ると大雨が降っているから
ドアを開けたらきっとあなたは悲しそうな顔をするから
裾が靴が濡れるって言うはずだから
もう少し止んでから外に出ておいでよ
私は雨靴を履いて透明な雨具を着て
あなたは車に乗って
それまではもう少しゆっくりして
今はもう窓枠にはあなたしかいない